ニコニコ宣言(9)

~ すべてのニコニコしたいユーザーに向けて ~

 ニコニコ動画は2010年度・第2四半期の黒字化を達成いたしましたが、ニコニコ宣言で掲げる目標は今だ道半ば。今後もこの宣言は黒字化を維持することぐらいに重要な目標です。ご一読頂ければ幸いです。

2010年6月1日 ニコニコ普及委員会

第一宣言 ニコニコは無機的な集合知ではなく人間のような感情を備えた集合知を目指します

 web 2.0の本質は地球規模のwebを媒体とした集合知をつくりあげることであるといわれてますが、われわれはその集合知に人格や感情を備えさせることを目指したいと思います。いまのネットが目指している多くの集合知とは、個々の人間の労力や行動を部品として機械的に収集して構成されます。それはいわば現実世界の歴史における大運河やピラミッドのような仮想世界においての人間の叡智と労力がうんだ歴史的偉業にたとえられるかもしれません。ですが、現実世界に生きる人間と同じように、仮想世界に生きる人間も別に歴史的偉業をおこなうためだけに生きているわけではなく、ただ、楽しいことがあれば笑い、悲しいことがあれば泣くような日常を生きています。
 われわれはそのような仮想社会に生きる等身大の人間そのものの姿を投影した集合知をつくることを目標とします。感情と人格を持ち、そして生命そのもののように変化し、流れていき、寿命をまっとうし、また、新しいものが生まれる。そういった集合知です。われわれの集合知は真実にむかって収束することを目指すものではなく、人間のパートナーとして共に苦しみや悩みも共有しつづけて永遠に完成することのない集合知です。そんな人間的な暖かさをもつ集合知が人間と共存するような未来のネット社会を目指します。

第二宣言 ニコニコはすべてのものにコメントをつけられるサービスを目指します

 われわれは人間から知識だけを分離して抽出、精製する集合知は目指しません。われわれが収集するのは知識ではなく人間の感情そのものです。人間がなにかに対して思った感情を表現することは、人間が社会のなかで生きるという行為そのものにほかなりません。われわれは人間の生きるという行為をネット上での新しいコミュニケーション手段を提供することで実現します。それはライフログとしてデータをとることが目的では決してありません。人間の営みの記憶としてデータが生成されるだけなのです。データを保存するのは分析・集計するためではなく、フォトアルバムのように思い出を残すためでしょう。
 上記を実現するために、まずネットで人間の感情を表現するもっとも基本的なコミュニケーション手段としては、なにかに対してコメントをつけるという行為を選択しました。今後、人間の感情表現の手段という文脈から、コメントをつけるという概念はもっと多様化され拡張されるかもしれませんが、われわれが追求しつづけるものは人間の生きるという行為をネット上でいかに実現するかということです。

第三宣言 ニコニコはネット上に人間本位の仮想世界を構築することを目指します

 ネットが最初に一般大衆のものとなったのはパソコン通信時代に遡るのでしょうか。そのとき、ネットは人間同士がつながる新しいコミュニケーションモデルを提示しました。人間が現実世界でなく仮想世界においても生きることができることが証明されたのです。やがてインターネットが普及しはじめ、ネットのもつ潜在的な可能性や価値が明らかになるつれ、ネットは人間のコミュニケーションの場というよりも、新しいビジネスモデルが提示される場所へ変わり、人々の感情のふれあいではなく、巨大なお金がとびかう世界になりました。それはネットという巨大な新世界の秩序が形成される過程では仕方がなかったことかもしれません。しかし、それも一段落し、Web 2.0時代の到来などと声高に叫ばれる今日、われわれはもういちどネットを人間同士のコミュニケーションの場として再構築することに挑戦します。われわれはWeb 2.0とは技術革新でも新しいビジネスチャンスでもなく、人間本位の仮想社会をとりもどすいわばwebルネサンスとでもいうべきものとして定義します。

第四宣言 ニコニコはネットサービスをユーザと双方向につくりあげる作品として提供します

 ニコニコが提供するネットサービスは人格と世界観をもちます。われわれが提供したいものは便利なインフラではありません。ユーザーと対等の立場で相互にコミュニケーションをすることにより完成されるひとつの作品です。われわれがつくりたいものは万人が受け入れるサービスではありません。われわれがつくるネットサービスは個性をもち、新しい価値観をユーザーになげかけます。人間の顔をした作品としてのネットサービスがわれわれが目指すものです。ネットという仮想世界において、すでに電気や上下水道や道路などのインフラは整いました。これからは仮想世界での文化であったりエンターテイメントが必要とされるのでしょう。ニコニコが提供したいのは人間が生存するためだけであれば、きっと必要のないものかもしれませんが、仮想世界においてユーザーが人間らしく生きるために大切にしたいと思うようなサービスです。

第五宣言 ニコニコはネットでのコンテンツと著作権の新しい可能性を追求します

 われわれは、ネットを大義名分として無料あるいは格安で利用できるようなサービスやビジネスモデル、また他メディアのコンテンツをそのままあるいは劣化した形で利用するサービスやビジネスモデルをめざす考え方は断固拒否します。われわれがつくりたいのはコンテンツの新しい利用法、楽しみ方、広め方をユーザーとクリエイターの双方に提供することであって、コンテンツの世界が豊かに広がるためにはクリエイターに利益がもたらされることが根本的に必要であることを信じます。
 また、われわれは既存のコンテンツのネットでの延長線上のものだけでなく、ネットで生み出される新しいタイプのコンテンツをもつくりだすことを目標とします。われわれは現実世界のコンテンツを仮想世界へ単純に投影しただけでは、コンテンツの世界は拡大されないことを知っており、仮想世界においてユーザーが欲しがるコンテンツをつくりだし、新しい著作権の対象物となることを目指します。

第六宣言 ニコニコはすべての表現者が自由にコンテンツを発表できる場を守ります

 ネット上の作品について好きなコメントをつけることは、すべてのユーザに保証された基本的な権利であるとわれわれは考えています。これをニコニコ上で実現するためにもっとも重要なことは、ニコニコ上にすべてのコンテンツが集まることです。しかしながら、ときに自由なコメントの暴力は、他者がニコニコ上でコンテンツを発表する自由を奪う目的をもって行使される場合があります。
 好きなコメントをつける自由というものが、言論の自由であるとするなら、われわれは他者の言論の自由を妨害するためのコメントをつける自由というものは、これをみとめません。ニコニコはすべての表現者がコンテンツそのもの以外の理由で批判にさらされることのないような発表の場を提供したいと考えています。

第七宣言 ニコニコは仮想世界を現実世界へとつなげます

 21世紀の今日、次に暴動や社会不安が発生するとすれば、現実世界ではなく仮想世界が震源地となるかもしれません。仮想世界でなにが起こっているか、現実世界のひとたちの多くは、ほとんど知りません。あるいは定期的に報道されるネット炎上事件によってなんとなく不気味な印象を抱いているでしょう。自由中立なネットの特性は、ときに声の大きい少数派に支配されることも誤解を大きくします。
 われわれは、仮想世界と現実世界の不幸な行き違いが起こらないように、仮想世界でなにがおこっているか、なにを人々が望んでいるか、それはどれぐらいの割合のひとたちなのかを仮想世界からすくいあげ、現実世界へと伝えるべく努力します。それによって仮想世界と現実世界がよりよい関係を築きながら融合していく未来を願います。

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